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UK選手権レポート 「トレンドと普遍性」


世界3大大会の一つであり、今年の趨勢を占う意味でも非常に重要な試合に挙げられるUK選手権がイングランドはボーンマスで行われた。イングランドの南西部に位置する海沿いの街、ボーンマスは夏のシーズンは行楽客で賑わうが、この寒風吹き荒れる季節にはダンス関係者以外、見る影もない。冷え込む外気とは裏腹に、BIC(Bournemouth International Centre)内は熱気に包まれていた。


3日間に渡って開催されるこのビッグイベントは初日にプロアマ両部門のライジングスター戦、2日目にプロボールルーム、アマラテン、3日目にプロラテン、アマボールルームという日程になっており、ブラックプールなどのコンペに較べるとコンパクトにまとまっており、旅程が組みやすいせいか、日本からの応援の観客も多いように感じる。日本人はエントリー者数もさる事ながら、応援で来場する人数もかなりの数なのだから、今も昔も日本人は良いお客様であろう。


選手として10年以上通い続けてきたこの会場に、プレッシャーや緊張感なく訪れることに違和感を感じながらも一抹の淋しさも覚える。ライジングスター戦の前日に、イタリアはローマから直接現地入りし、観戦に備える。既に緊張感を漂わせたカップルとすれ違う度に、気持ちが高揚して来る。



初日、ライジングスター戦のはじまりである。プロラテンのライジングスター戦を毎年観ていて感じる事なのだが、最初の2ラウンドくらいは目立った外国人選手はいないように感じる。今年は日本人が上位に食い込めるのではないかと淡い期待を抱くのだが、ベスト96、ベスト48くらいになるとどこにいたのか、外国人選手達が途端にみんなパワーとスピード、そして存在感を出してくる。指折りいい選手を数えていくと、あっという間に6カップルになり、今年も日本人にとっては厳しいリザルトになる事を予感させる。通常ライジングスター戦は決勝に入賞すると、翌年からは本戦のみの出場になり、また新しいファイナリストが誕生するのだが、毎年毎年日本以外の他の国からいい選手が出てきては、ファイナルに入っていく。何が足りないのか、何故残れないのか、選手だけでなくコーチ、役員を含めた日本人関係者全員で考える必要があるのではないかと思う。


大きく3つのポイントに分けて考えてみる。まずはフィジカル、外国人選手はラウンドが進む毎に調子が上がって来るのに対して、日本人は最初は調子がいいのだが、ラウンドが進む毎に苦しそうに振り絞って踊っているのが分かる。踊り込みの量が足りていないと言うよりは、海外での試合を想定して踊り込んでいないように見受けられる。いくら自分の心地よい環境で、好きな曲をかけて練習していても、海外の強豪選手達から受けるプレッシャーの中で、時差や環境の変化に適応しながら踊るのとは天と地の差があるだろう。そういった意味ではメンタルの部分も重要になってくる。どんな試合でも常に自分のベストが出せるよう、フィジカルとメンタルのバランスを整えておく必要があるだろう。次にテクニックなのだが、日本人は器用でコネクションなども決して海外の選手に比べて劣っているわけではないのだが、フロアの上で見ると何故こうも違うのか。一番は音楽に対する身体の表現力の違いだと思う。音楽を身体でどう表現するか、ビートやリズム、メロディをどう解釈してそれを身体のどの部分を使って踊りとして見せるか。この辺りのテクニックと感性が非常に乏しいと感じる。ただ決められたルーティン、ステップを踏んでいるだけではチャンスは中々回って来ないだろう。最後に一番大きな違いとして感じるのがスケールの大きさである。いろんなタイプのダンサーがいる中で、勝ち残っていく選手は皆、カップルとしての大きさを持っているように思う。もちろん単純に歩幅が大きいとかではなく、カップルの創り出す空間であったり、ウエイトシフトの量であったり、根本的に一つ一つの動きの量の大きさが上にいく選手に比べ、、多くの日本人選手には足りていないのではないかと感じる。


さて、一方ボールルームのライジングスター戦なのだが、こちらは毎年多くの日本人が上位に進出している。大体日本での成績が同じくらいならば、ラテンより、1ラウンド多く残っているような感じである。一つ大きな要因として考えられるのが、日本人ジャッジの多さである。今年もそうなのだが、毎年UK戦には多くの日本人がジャッジパネルに名を連ねる。どのカテゴリーにも必ず日本人ジャッジの名前があり、特にプロボールルームライジングスターにおいては4名もの日本人ジャッジが含まれており、非常に有利な状況といっても過言ではない。そんな中でも上位に進出するカップルは予選のうちからブライトしており、カメラのファインダー越しにでも、その調子の良さが伺える。見事決勝6位に進出した小林組もそのうちの1人である。しかしながらボールルーム部門においても日本人選手の多くはラテンと同じく、UK戦の空気に呑まれ、その実力を発揮出来ずにいるように感じる。実力を出し切って予選で落ちるならば、そのラウンドがその選手の今の実力だと納得もいくだろう。しかし本来の実力を出す前に1予選、2予選で落とされてしまう状況を見ていると、なんとももったいないように思う。


日付け変わって2日目のプロボールルーム、アマチュアラテン本戦である。日本人はライジング戦には出場していない橋本組、浅村組、森脇組の登場である。順当というか、妥当というか、やはりこの3組がベスト48に進出、そして橋本組がベスト24に進出した。特に橋本組においては準決勝に残るのではないかと感じるくらい果敢に攻めていたが、現在の世界トップ12の壁は非常に厚く、惜敗といったところだろう。一方アマチュアラテンでは一波乱、ブラックプール、ロンドンインターのチャンピオンであり、このUK戦でもタイトルを手にするだろうと目されていたフェルディナンド組がクレメン組に優勝を持っていかれ、まさかの苦杯を舐める事に。確かにクレメン組の方がブライトしていた様に思う。この逆転劇に会場がどよめいた。


そして迎えた最終日、プロラテン、アマチュアボールルームの本戦である。日本人はライジングスター戦の52組エントリーに瀬古組を加えた53組がエントリーしている。1予選を通過した日本人が20組、2予選を通過した日本人が8組、ほとんどの日本人選手が早々にフロアから姿を消す。毎年の事とはいえ、応援する側に回ると、これは残念でしょうがない。悔しさをバネに次回また、奮起して頑張ってもらいたいと切に願う。そんな中でも若手の高野組や野村組が3予選まで進み、これからの日本人選手にも期待が持てる予感もする。ベスト48には瀬古組、増田組の2組が、ベスト24には瀬古組が進出した。瀬古組においては周りの大型な海外のトップ選手に比べると小柄ながら、持ち前のテクニックとミュージカリティーを駆使した職人技で見事、夜の部に進出した。


プロラテンの準決勝はいまだかつて見た事の無いくらいのハイレベルな戦いで、誰が決勝に残ってもおかしくないくらいのクオリティだろう。特に決勝6番目の椅子を賭けて当確ライン上にいる、ニノ組、ニキータ組、モートン組の元アマチュアチャンピオン達のバトルは必見で、最高のパフォーマンスを準決勝で見せてくれた。結果、見事決勝6位にはニノ組が入賞、ロンドンインターでの雪辱を晴らしての決勝入りとなった。特筆すべきはニノの脚の美しさだろう。お手本の様に綺麗にインサイドを使いながら踊るチャチャチャは素晴らしいの一言に尽きる。5位には最近頭一つ抜けた感があるキリル組が入賞。男性、女性とも非常にアグレッシブに踊るカップルで、次世代チャンピオンの筆頭とも言えるだろう。3位と4位が入れ替わって、4位にドーリン組、3位にトロス組という結果になった。両者ともパートナリングとそれに伴い、女子を魅せるカップルなのだが、この試合ではドーリン組がやや精彩を欠いたように感じた。一方、トロス組のベーシックを中心としたルーティンの組み立てが、パートナーのイーナのラテン女子としての魅力を充分に引き出しており、観客を魅了させていた様に思う。準優勝にはステファノ組、優勝はリカルド組と頭一つ抜けた2組が順当にワンツーフィニッシュを決めた。リカルドの年齢を考えると、そう遠くない将来、ステファノ組がチャンピオンになるのではないかと予想されるが、チャンピオンとしてどういったダンスを魅せてくれるのか、楽しみである。


世界のダンスシーンの移り変わりは非常にスピーディーである。1年、2年であっと言う間に選手は入れ替わるし、ルーティンやドレスの傾向も変わる。変わらない普遍的なもの、常に変化していくトレンドを見極め、次世代に想いを繋いでいく必要を感じながら帰路に着いた。

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御礼

謹啓 猛暑の候、ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。平素は格別のお引き立てをいただき、厚く御礼申し上げます。 この度、7月 18 日に開催させて頂きました「2021 Kuwabara Summer Ball」において、多くの会員の方々より熱意が込められた暖かな ご協力を賜り有難うございました。 昨年より続いております新型コロナウイルス感染蔓延により、感染予防に最大限の注意を払いながらのイベン

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