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「選手とは」

一期一会 2021 7月 「選手とは」



初めのうちは高尚な意識など毛頭無かった。宮岡先生や市川学先生に誘われるがままに、選手会の理事になり、理事歴を重ねるうちに事業部長や企画部長などキーポストを任されるようになっていった。今思えば将来の幹部候補として育てていこうという執行部の思惑があったのだろう。当時からいち理事としてではなく部長として、選手会全体を俯瞰して思考し発言するように叩き込まれてきた。本池先生と一緒に執行部入りした時には1年を通じての選手会のお金の流れや、会の理念、イデオロギー的なものが当たり前のものとして頭に入っていた。年に一回の熱海でのOB懇親会は、普段タキシードを着て競技会会場でしか会えないお偉い先生方と浴衣姿で膝を突き合わせることができる貴重な機会であり、そこで桝岡先生や板垣先生から伺った原理原則の教えやボールルームダンスというものの捉え方は今でも自分の背骨になっている。


時期にして峰先生、進藤先生、そして私が会長の時分、ちょうど選手としての根幹を揺るがす騒動に見舞われた。詳細は割愛するが、選手が選手でいられなくなるような事態に直面し、その矢面に立つ選手会長や執行部は連日の会議会議で眠れぬ夜が続いた。上部組織の国際的分裂に端を発した一連の騒動から学んだことは、選手は政治的闘争とは極力距離を置き、自らの選手生活に没頭出来る環境を作る事だった。将来に渡って選手が選手らしくある為に、プロ野球選手会やJリーグの選手会を参考にあらゆる方面に働きかけ、先人たちが繋いでくれた縁を元にJPCLの庄司会長とTNKSの田原会長と立ち上げたのが日本のプロ選手会を統一するABDCだった。当時JBDFの外部理事だった稲川素子現JBDF会長や名誉相談役だった島村宜伸氏が設立に際し、バックアップしてくれたことも大きかった。


その後、現役選手による運営という約束の元、引退した私はABDCを離れたが、現状はどうだろう。結局当時と同じような問題でまた選手が苦しんでいるではないか。。。


国内のあらゆるプロスポーツ団体を調べてみると分かるが、選手会とリーグ、競技運営母体は基本的に別組織である。なぜなら競技者と運営団体はしばしばその性質上、利益が相反するからである。勿論一昔前の組合やユニオンのように春闘で激しく戦い、ストライキも辞さないような体制では無く、異なる立場からその業界全体を活性化させるような良好な関係の組織体制ではあるが、選手生活をプロテクトする為の最低限のシステムとしてスタンダードな在り方として機能しているように思う。一方我がダンス界は根強い師弟関係や引退後の生活保障の観点からも、上部組織と選手会は一蓮托生の構図のままである。結果、選手は自分達の預かり知らぬ上層部の政治的ムーブメントに引きずられることとなる。ABDCの理念はどこへ、、ABDCの向かう先に希望を託し、リスクを承知しながらも支援賛同してくださった方々の想いはどこへ。


歴史は繰り返す。対岸の火事だと思い、たかを括っていたら、自分の足元も燻っている。

どうか忘れないで欲しい、選手でいられる時間は本当に短い。そして選手がいなければ試合は成立しないし、競技団体は機能しないという事を。私は縁あって世界選手会のアドバイザーとして、そしてABDCの相談役としていまだに国内外の選手会との付き合いがあり、その内情を知るが故に心苦しくなる。自分達の権利、未来の選手達の権利を守れるのは自分達しかいない。選手会のトップはそういった想いで戦っている。選手が選手らしくその競技生活に没頭できるよう、どうか選手会を応援してもらいたいし、森脇先生、小林先生、樋口先生を始めとした選手会役員のメンバーが眠れぬ夜から解放され、自分のダンスに没頭できる日が来ることを願ってやまない。


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