一期一会「もう一つのBlackpool Dance Festival」

 今も昔も世界で一番のダンスの大会はと聞かれたら、私は間違いなくブラックプールでおこなわれる全英選手権(ブラックプールダンスフェスティバル)だと答えるだろう。1週間以上に渡って繰り広げられるあらゆるカテゴリーにおける、白熱した闘いもさる事ながら、大会に付随する様々なイベント、パーティー、世界中から集まるダンスにまつわる業者の数など、どこを探してもこれ以上の規模やクオリティーはお目にかかれないだろう。また、歴史や伝統に甘んじる事なく、常に新しい試みにチャレンジしていく進取の精神が、このブラックプールダンスフェスティバルを現在においてもなお、世界最高峰たらしめているのではないだろうか。今回はこのダンスフェスティバルを様々な角度からレポートしてみたい。


 ブラックプールダンスフェスティバルは、毎年5月末の金曜日、プロラテンライジングスター、シ ニアボールルーム部門からスタートし、翌週の金曜日におこなわれるプロボールルーム本戦で幕を閉じるはずなのだが、近年エントリー数やカテゴリーの増加に伴い、前日の木曜日からアマチュアライジングの予備予選をおこなっており、本来カクテルパーティーしかなかった中日の日曜日にアマチュアライジングをおこなっている。また、世界的にプロアマミックスコンペが浸透してきている事を踏まえ、前倒しの月曜日、火曜日にプロアマミックスコンペを、水曜日にプロアマデモンストレーションのあるパーティーを開催している。このプロアマミックスコンペは非常に好評を博しており、2日間で延べ約3000組のエントリーを計上している。ここ数年、世界的に大きな 大会にはプロアマミックスコンペが併催されることが増えてきており、またこのミックスコンペには互換性のあるランキングシステムが整備されつつあり、世界的ユニオンとしてミックスコンペをオーガナイズしていく流れになっている。日本でも、是非この様なシステムを取り入れ、ダンス 界の活性化に役立ててもらいたいものである。


 皆さんご存知の通り、現在のブラックプールダンスフェスティバルの運営には多額のチャイナ資本が投入されており、メインスポンサーである、ヤンビン氏をはじめ、ミックスコンペの出場者、プレミアムデモンストレーションの出演者なども中国、香港系のアッパークラスがかなりのウエイトを占めている。結果、中国人に対しての特別な計らいが皆無かと問われれば、魚心あれば水心ありで、年間を通じてコーチャーが頻繁に往き来しており、上海ブラックプールも今年で3年目、英国と中国の蜜月は深まるばかり。毎年、ジュニア層から確実に選手が育って来ており、現に今年のアマチュアボールルーム本戦では3組ものチャイナカップルが決勝に進出した。


 ブラックプールダンスフェスティバルの期間中には様々なイベントも企画されており、ドレスメーカーが一堂に会するインペリアルホテルでは、クリスアンクローバーとエスパンサルバーグクチュールの合同ファッションショーがおこなわれたり、世界選手会主催のチャリティーパーティーがあったりと、毎日何かしら忙しい日々を過ごす事になる。私はファッションショーではシャンパンをサーブするバーテンダーを仰せつかり、選手会のパーティーでは、錚々たるメンバーと共にデモンストレーションを披露させて頂いた。インターナショナルのコーチャー陣の前で初めて新カップルとしてダンスを披露するという事で、多少の緊張はしたものの、素晴らしい舞台で踊れる事の喜びに勝るものはなく、非常に幸せな気持ちで踊らせて頂いた。他にも世界の一流コーチャー、トップ選手によるレクチャーが聞けるコングレスや、チームマッチに出場した選手によるコミカルな出し物が用意されているカクテルパーティーなど、長期滞在である事を忘れさせてくれる催しものが目白押しである。


 肝心の試合はというと、ライジング、本戦ともやはり日本人には厳しく、ラテンは本戦ベスト48の瀬古組が、ボールルームは本戦4種、ベスト24に橋本組、ベスト48に浅村組がベストリザルトであった。今回観ていて感じたのだが、海外の試合にも関わらず、比較的みな、臆することなくのびのびと実力を発揮し、踊れていた様に感じた。まずは実力が発揮されている事を喜ぶべきなのだが、ほとんどの日本人が1、2予選で落とされている状況は毎年変わらず、現状を打破する為の努力がより一層望まれる。足りないものを言えば切りが無いが、あえて言えば、ハングリーさが足りないのだろうか、執念の様なものを感じさせるカップルが少ない様に感じた。アマチュア部門にも日本のトップ選手達が出場していたが、世界のアマチュアの強靭な体格、スピード、パワーの前では、やはり太刀打ち出来ておらず、何かを抜本的に変えていかなければ、このままターンプロしても厳しいだろうと言わざるを得ない。


 アマチュアラテンの本戦では、昨年、サプライズで決勝入りしたオースティン&ニノ組が大人気。 新しいラテンアイコンになるのではと思わせるニノのダンスに会場中が沸き立つ。一度彼らを見てしまうと、他の選手に目がいかないのである。今年も決勝入りを果たしたものの結果は6位。拍手が鳴り止まず、マーカスもMCを中断する程であった。注目の優勝争いではアメリカのフェルディナンド組がUK戦の雪辱を果たし、見事初優勝に輝いた。


 プロラテン本戦では、相変わらずのハイレベルな戦いが繰り広げられ、その中でも優勝したリカルド組は超人さながら、圧倒的パフォーマンスで全種目優勝した。準優勝にはステファノ組、順当ではあるが、少しパフォーマンスに物足りなさを感じた。彼はいつの頃からか試合で笑わなくなった。あのやんちゃな、振り切れたステファノをもう一度見てみたいと思うのは私だけだろうか。3、4位争いはドーリン組と、今年は日本インターにも参戦したトロールス組。例年より気温が高いせいか、会場自体の熱気のせいか、ファイナル後半に徐々にバテ始めるドーリン組に対して、最後までパフォーマンスが落ちないトロールス組が猛追、辛くもドーリン組が逃げ切り3位となった。5位にはファイナリストとして確固たる地位を築いたキリル組が入賞。コングレスにおいて、カリスマについて素晴らしいレクチャーを披露したキリルだったが、少し一人よがり過ぎるのか、パー トナーのポリーナが居なくなる時間が多かった様に感じた。日本でも人気のあるニノ組が6位、ニキータ組はジャイブのみ決勝にコールされた。


 ブラックプールでは1週間以上、デイジャッジ群とイブニングジャッジ群と、同じジャッジが審査するのだが、このイブニングジャッジに我らが田中英和先生が名を連ねた。ブラックプールのイブニングジャッジを務めるということは非常に名誉ある事で、最近まで英国人しかジャッジ出来なかった事を考えると、これはアジア人で初めての快挙かもしれない。


 ヨーロッパは近年、地球温暖化の影響なのか平均気温が上昇しており、5月のブラックプールは半袖で過ごす事が出来る程、温かい。毎年コートを持って来ていた事を考えると別世界である。海岸沿いもショッピングモールも新しく整備され、古く寂れた観光地という趣きから、新しいレジャースポットとしての変化を感じさせてくれる。少し足を伸ばせば大小無数の湖が連なる湖水地方や、スコットランドの玄関でもある、グラスゴーやエディンバラなど、イングランドとはまた違った景色や匂いを楽しむ事が出来る。自分が現役で競技会に集中していた時には、見えなかったブラックプールダンスフェスティバルの楽しみ方を、今回の一人旅で新たに発見する事が出来た。来年は是非、皆さんもご一緒にいかがですか?