一期一会「ペアダンスの意義」

 今月の一期一会は、これからの社会に於けるペアダンスの意義について考察してみたい。


 我々が生きているこの時代はおそらく文明の発達スピードが、人類史上最も急速に進んでいる時代ではないだろうか。AIの発達、瞬時翻訳、自動運転技術、キャッシュレス化、ひと昔前に見たSF映画のような未来がすぐそこまで来ている事はもはや疑いようもないだろう。人と人とのコミュニケーションの形は日々変化していき、SNSの発達に伴い、世界との距離はゼロになった。レストランではテーブルに座った全員がスマホをいじり、目の前の友人ではなく、画面の先の誰かと会話をしている。病院での手術もロボットを使った遠隔操作。家庭教師はスクリーン越しである。


 このようなコミュニケーションの方法の是非はともかく、現実として人と人との触れ合いが希薄になっている事は明白であろう。そんな今日であるからこそ、人と人とが直接に触れ合うコミュニケーションとして、ペアダンスというものの価値を、私達は再認識する必要があるのではないだろうか。捉えようによっては、廃れゆく文化の筆頭にも挙げられるペアダンス。その象徴とも言えるボールルームダンスが、これからの未来に生き残っていく為に、今私達が出来る事を考えていきたい。


 人間は本来、踊る喜び、踊りたいという原始的な欲求を持っている。ノリの良い曲を聴けば足踏みしたくなるし、綺麗な曲に合わせて身体が動いたりする事もある。音楽とダンスは切っても切れない関係にあり、世界中どこに行っても民族音楽があり、民族舞踊がある。また一人で踊るよりも大勢で踊る方がハーモニーを分かち合えるといった世界共通の認識もある。例えそれがダンスバトルであろうと、きっと根幹には分かち合いの心があると思う。現にダンスという大きなジャンルで捉えると決して廃れてはおらず、むしろ動画サイトやアプリの発達のおかげで、ダンスというものが日常に深く浸透していると言ってもいいだろう。では何故ペアダンスはイマイチ拡がっていかないのだろうか……。


 そこには大きく分けて二つの原因があると思う。一つはペアダンスは難しいという先入観、イメージがあるという事。確かにペアで踊る事は難しいと思う。一人分のステップだけでも大変なのに、相手のステップも覚え、リードやフォローも覚えて、やっと踊れても足型だけで、ダンスには程遠い。これでは中々、楽しいと感じるところまで行かない。楽しいと感じるところに到達する前に大半に人が脱落してしまうのである。もう一つはカッコいいペアダンスのイメージが無いという事。近年、ようやく動画サイトやSNS上に格好良く踊っているペアダンスの動画が散見される様になってきたが、やはり一般の人のペアダンスのイメージは老後の趣味の社交ダンスというところから中々抜け出せず、せいぜいウリナリ社交ダンス部やキンタロー。の活躍といったところだろう。もちろんそれ自体も素晴らしいのだが、世界トップクラスの本当に格好良い、綺麗な、芸術的なペアダンスに触れる機会に恵まれないといったところも、一般人の現実的な認識としてのペアダンスのイメージがイマイチなモノになっている原因なのかもしれない。私達はこういった原因と向かい合いながら、どうしたらペアダンスを流行らせる事が出来るか、真剣に考えていく必要があるだろう。


 正解は決して一つではないと思う。数年前から徐々に増え始めた、社交ダンスの入り口的な初心者用ステップ、誰でもダンスや、ハートフルエクササイズ、ベビーダンスなど、極力ペアダンスの難しさを取り除き、楽しさを感じてもらえる様な取り組みなどは私達の業界の敷居を下げる一助になっていると言える。また、格好良いダンスとは何かというものを実際に観に来てもらい、“観る専”、いわゆるファン層を増やしていく事も必要であろう。トップ選手がテレビなどのメディアに積極的に出ていき、認知度を上げる。YouTuberや沢山のフォロワーを抱えたダンサーが出てくる。ダンサーとファンとの触れ合いの場を創り、実体験としてのダンスを楽しんでもらう。何が正解かはわからないが、下手な鉄砲も数打てばではないが、やってみなければ分からないだろう。動き続けていないと、枯れていくのは想像に難しくない。一人でも多くの関係者が情熱を持って、目の前の小さな事でいいから、自分に出来る事をやっていけば、きっといい方向に向かって進んでいけると思う。人と人との触れ合いが希薄になって来た今日だからこそ、人に触れ合い、音楽を感じて、身体を動かすペアダンスは、人生を豊かにする為にもなくてはならないものだと思う。子供が社会性を身に付ける上で、他人に触れ合い、思い遣りの心を育む事。高齢者の方が、音楽に合わせ、身体を動かし、健康寿命を伸ばす事。こんな時代だからこそ、老若男女問わず、人と直接触れ合うペアダンスには大きな意義があるのではないだろうか。