一期一会「オン ユア フィート」

 先日、振り付けのお手伝いをさせて頂いた、東宝ミュージカル「オンユアフィート」の東京公演の幕が、日比谷はシアタークリエにて開けた。ラテン界の歌姫、グロリア・エステファンの半生を描いたこのミュージカルはブロードウェイを皮切りに、全米を異例のロングラン公演で駆け巡った。


 日本では東宝がその演出権を買い取り、東京、大阪、福岡、名古屋をおよそ1ヶ月半かけて回ることになる。約一年前にこの振り付けの話を東宝のプロデューサーから頂いた時に、「ラテンの振り付けが出来る人を探していたら、金光という名前が出て来た。是非力を貸して欲しい」と言われ、それならばと引き受けた事を記憶している。幸いにも今まで、「Dance With Me!!」をはじめ様々な舞台やショーを振り付けてきた経験を活かせるのではないかと考えていたところ、制作が始まってから、カルチャーショックを受ける事になった。


 振り付けに先立ち、まずは出演者全員を集めたラテンワークショップを開くことになり、ラテンダンスの身体の使い方から、音の取り方などをレクチャーする。流石に皆、ミュージカルダンサーだけあって飲み込みも早いし、センスも良く、特に主役の元宝塚トップスターである朝夏まなとさんは何をやっても格好いいし、真摯に取り組む姿勢そのものにプロフェッショナリズムを感じた。


 しかしながら、約1ヶ月かけて振り付け、振り写しをしていく過程の中で、ペアダンスというものに対する不慣れさや、リードやフォロー、パートナリングなど、一朝一夕では伝え切れない技術の壁に、もどかしさを感じる事もあった。また舞台全体の流れ、時代背景、その場面での心の在り様などを加味した上での振りを考慮する必要や、場面転換、次の衣装への早替え、セリフ回しなど、今までの振り付けでは考える必要も無かった事まで頭に入れておかなければならず、全てを統括し、全場面の歌やセリフ、演奏、演者の人数まで把握している演出家の上田一豪さんは本物の天才じゃないかと思う事が度々あった。


 一つの作品を創り上げるのに、本当に様々な役割の人が自らの仕事に対し、プロである必要があり、トップにいる演出家の上田さんの指示の元、僕ら振り付け師は、演出家がイメージしている絵を具現化していく。音楽監督はバンドリーダーをはじめ、バンドメンバーに演奏のニュアンスを伝えていく、そして練習や振り付けの時からずっと伴奏もしてくれる。舞台監督は当日の舞台の進行、裏方の舞台転換の責任を負っており、美術の制作も含め、一公演で膨大な仕事を抱えている。衣装チームもトラック一杯になるほどの衣装を抱え、朝から晩まで、衣装チェックをしている。歌の先生がおり、演出助手がおり、メイクさん、ヘアアーティストさん、スケジュール管理、動画配信、グッズ制作などなどあらゆる仕事に、その道のプロが関わっており、誰一人、舞台公演には欠かせないのである。そういった裏方の仕事に支えられ、素晴らしい演技、歌、ダンスを一流の演者達が披露していく。


 人数も予算も才能も、私が関わって来たものの中では、他に類を見ない規模のものである。ショーの内容も、激動のキューバ、アメリカで生きていく事の難しさ、家族の葛藤など、人間の深い心の底にまで切り込んだ、熱い作品になっており、ダンス愛好家の方には、馴染みの深いステップや楽曲も使われており、平成最後の締めに観るエンターテイメントととしては、もってこいの舞台ではないでしょうか。当ブログを読んでくださっている皆様も是非、劇場へ足を運んで、素晴らしい舞台をご堪能ください。

最新記事

すべて表示

「フューチャーズカップ」

一期一会 2020年8月 「フューチャーズカップ」 一向に収まる気配を見せないどころか、第2波ではないかと目されるこのコロナ禍の状況。秋以降の試合やパーティーも続々とキャンセルの悲報が相継ぎ、停滞したままのダンス業界にも、廃業や撤退の影が忍び寄って来ている。私達はこのまま座して死を待つ他ないのだろうか。 私はターンプロした2002年から毎年学連の子達を教えて来た。1年も絶やす事なく毎年冬全へ送り出