日本国内にコロナの感染が拡がり始めた1年前、まさかこんなにも私たちの生活が激変していくことになろうとは思いもよらなかった。4月に入り緊急事態宣言が発令され、仕事が無くなり、渋谷は閑散とし、初めて現実のものとして未曾有の危機をその身に感じた。
選手は試合が無くなり、パーティーもイベントも軒並み中止になり、我々アーティストは活躍の場をリアルからデジタルに求めていった。SNSやネットを通じて、様々な発信がなされ、そこに新しいビジネスチャンスが生まれて来た。プロフェッショナルのダンサーとして、またダンス講師として、自身の存在感を発露する場所を求めて行った結果、当然の帰結とも言える。
さて、現代のメディアを端的に表現するならば、テレビとネットの共存一人勝ち状態だと言える。テレビとネット、今や切り離して考えることが難しいくらい密接に結びついており、テレビドラマのトレンドワードがTwitterに並び、ネットニュースをテレビは後追いする。テレビでブレイクした芸人のYouTubeチャンネルが盛り上がり、人気ユーチューバーがテレビのバラエティを賑わしている。
私は書籍やラジオをこよなく愛しているが、新聞や雑誌、ダンスビュウも含め文字媒体のメディアはデジタル化を余儀なくされ、時代に合わせ、簡素化されており、教養は益々遠のいている。直感的で、簡易なものが好まれ、ネット上で暗喩や示唆、蘊蓄を含んだセンテンスを見つけることは最早至難の技だ。
そんな中、我々ダンス業界にとって、素晴らしい朗報が飛び込んで来た。年の初めにテレビ東京系列にて放送された「バルカーカップ特別番組」の好評を受けて、新たに4月から毎週水曜日午後21:54-22:00 テレビ東京の地上波にてダンスの番組を放送することになった。日本を代表するヴァイオリンの名手、古澤巖さんの演奏で、日本のトップダンサーたちが踊るという夢の企画である。今まで、バラエティとして社交ダンスがフォーカスされることはあったが、純粋に芸術としてトッププロの社交ダンスが地上波で毎週放送されることは、かつてないほどのインパクトになるのではないかと思う。もちろん、私たちダンス関係者にとっても素晴らしい話だが、安直なコンテンツが好まれるこの時代に於いて、ダンスと音楽の美しいハーモニーを前面に押し出した番組は、日本国内に高尚なダンス文化の形成を予感させ、大きな波紋を拡げることになるのではないだろうか。
私もバルカーカップ特別番組の解説として関わらせて頂いた経緯から、この番組でも臼井恵先生と共にダンスの解説として出演させて頂いているが、ボールルームダンスの芸術性や躍動感など、今までメディアでは、中々切り取って貰えなかった核心にスポットを当てた番組作りの方向性を、制作会社やテレビ局から感じている。テレビ東京の看板ニュース番組であるワールドビジネスサテライト(WBS)の直前のゴールデンタイムに放送するという意気込みからも、この番組に賭ける関係者の想いが伝わってくる。
暗いニュースが続くダンス業界に、一条の希望の光。ダンスがメジャーの階段を駆け上がる足音が聞こえているのは私だけだろうか。
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