どんなキャリアにも必ず終わりがある。
プロやアマチュアは競技ダンサーとしてのキャリアに終止符を打つタイミングを自らの意思で決められる。
学生競技ダンスのシステムはその根本の成り立ちが学生現役のみと規定されている事から、4年の冬の全日本戦で必ず全員の引退が決まっている。もちろん競技ダンスはアマチュアでも続けていけるし、プロとして自分の人生をダンスに懸ける者もいるだろう。しかし、4年間で学生競技ダンスの世界からは必ず引退しなければならない。つまり、始めた時から予め終わりが決まっているのだ。
競技ダンス部が一体どんな部活なのか分からないまま入部し、夏合宿で突如として豹変する優しかった先輩に慄き、ダンス部が体育会系の部活である事を嫌でも理解する。デビュー戦を経て他大学との交流も増えてきた頃には一端の競技ダンス部員である。
専攻が分かれ、スタジオに通うようになると、世界は更に拡がり、自分の踊りとはみたいな蘊蓄を語り始める。固定が決まり、レギュラー戦に出始め、幹部になり部の運営に携わるようになると、責任感が付き纏う。後輩の育成や練習会の運営、連盟や学校との折衝など、自分の練習ばかりもしていられなくなるが、そのような経験が規律を守り社会性、人間性を育む一助となる。
自己研鑽を続けるうちに内面も外見も磨かれ、洗練されていき、高校を卒業したばかりの青臭さはすっかり抜け、傍目からは美男美女ばかりの部活として羨望の眼差しで見られることになる。
やがて4年生になり、最後の時を覚悟するようになると、緊張感なのかプレッシャーなのか、仲の良かったカップルもギクシャクし始めたり、練習が煮詰ることも増えてくる。それでも容赦なく試合はやってくるし、大学の背番号を背負っている限り下手な踊りは出来ない。レギュラー争いが厳しい大学や、前の試合で結果を残せなかったシャドーカップルのように、冬の全日本戦に立てないでそのキャリアを終える選手もいる。
緊張に押し潰されそうになる自分を奮い立たせてフロアへと向かう。これが最後の一曲になるかもしれない不安と覚悟の狭間で4年間やってきたことを出し切る。予選敗退や下位決勝を踊り終り、泣き崩れる同期を横目にファイナルソロの準備を淡々と進める。熱気に満ちた決勝を踊り終え、誰もいないフロアで最後にオナーダンスを踊れるのはごく僅かな8組のチャンピオンだけだ。
皆が満足いくような結果を得られるわけではない、むしろごく少数だろう。それでも、あなた達が過ごしてきた4年間という濃密なダンス生活は、これからの人生を歩んでいく上できっと大きな財産になると思う。ダンスを好きにさせてくれた先輩や、かけがえのない同期。可愛い後輩や、他大の仲間達。そして戦友とも家族ともいえるパートナー。今はまだ実感が無いだろうが、5年後、10年後、きっとこの財産を実感する時が来る。大学で出会った人達は社会に出てから、自分という人間の軸を思い出させてくれる。大丈夫、あなたはまだ頑張れると背中を押してくれる。
客観的に観て大学競技ダンスのシステムは非常によく出来ていると思う。部活動を通した徹底した上下関係、組織の中で働くということ、極限状態での連帯感などを経験してきたあなた達には、社会に出てから即戦力になれるようなスキルが自然と身に付いているはずだ。
次のステージでの新しい人生の挑戦に幸あらんことを、、
卒業おめでとう。
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