一期一会
「ムーブメントとアクション」
梅が咲き、たけのこや初鰹が出回り始める2月終わりから3月半ば、丁度この時期は、立て続けにビッグコンペが開催される。UK戦が終わり、帰国の途に着いた選手達が、アジアオープン、スーパージャパンカップ、東京オープン、ユニバーサル選手権と、国内の主要な大会に標準を合わせ、しのぎを削っている。私はというと、残念ながら、パートナーのビザの関係で今年の前期の試合は難しいという状況で、自分が出場出来ないもどかしさを感じながら、これらの試合を観戦してきた。客観的にこれらの試合を観て、これまでも何度も話題にしてきた、海外の選手と日本人の選手の違いについて新ためて言及したいと思う。
ラテンダンス界の近代史を紐解けば、偉大なるチャンピオン、ドニーバーンズ氏以前、以後で大きくダンスのスタイルが変わったと言っても過言ではないだろう。ドニー、ブライアンと続いて来た、チャンピオンの流れの中で、世界的にムーブメントよりも、タイミングやアクションにより重きを置くスタイルが流行っていた事は事実であろう。しかしながら時代は流れ、現在の世界のラテンアメリカンダンスの主流は原点回帰、つまり、ボールルームダンスに端を発したムーブメント重視のスタイルに変わって来ている事を私達は理解しないといけない。「ムーブメント」と「アクション」、日本語にするとどちらも「動き」と訳する事ができるが、ダンス用語の意味で言うと、「ムーブメント」とは軸移動、背骨の動き、「アクション」とは軸の移動を伴わないその場での動きという事になる。分かり易く説明すると、アクションとは音楽を点で捉え、ムーブメントとは音楽を線、ないしは継続性のものとして捉える事をそれぞれ特徴としており、ラテンアメリカンダンスを踊る上で、どちらの要素も必要不可欠である。
国内外のコンペに於いて、海外の選手と日本の選手を見比べてみると、やはりパワーが違う、スピードが違うなどという事をあげることが出来るのだが、果たして本当にパワーやスピードがそんなに違うのだろうか?日本人の中にだって凄く早く動ける人もいるし、とんでもなくパワーを出せるカップルもいる。しかしながら、そのスピードやパワーが適切なタイミングで、適切な方法で、適切なダイレクションへ使われなければ、最良の結果を得る事は出来ないだろう。スピードが速い人が勝つなら、ジュニア世代の元気いっぱいな子達が一番速く動けるし、パワーで勝負が決まるなら、みんなジムに行ってマッチョになればいいだろう。ボールルームダンスの本質を勉強し、ダンスの動きの質を、正しいビートバリューの中で表現出来なければ、真の意味での成長は難しいと思う。そこでキーとなる言葉が「ムーブメント」と「アクション」である。現在の日本人の大半のラテンダンサーはアクションに注視し過ぎているように感じる。アクションでしか音を捉えないから、音楽が余ってしまい、ボディが止まってしまう。もしくはヒマだから余計なアクションを増やしてしまう。背骨がムーブメントしていかないから、手を繋いでいるはずのパートナーとの関わり合いも生まれて来ない。
私達は、
「人が一人で踊れる動きには限界があり、その限界はコネクションから生まれる二人のパワーやスピードを凌駕しない。」
ということを理解しなければならない。
カウンターバランスや求心力、遠心力を利用したビッグムーブメントや瞬発性にこそ、一人の限界を超えていける可能性があるのです。その為には、足から足へ、背骨を移動させる、ないしは足の上を背骨が乗り越えていく、ムーブメントというものを勉強し、理解していかないといけない。もちろん、ラテンらしさを表現する為のアクションやシェイプは、センス良くラテンを踊る為には必要である。ムーブメントをベースとしたダンスの上にアクションを散りばめる。ないしはムーブメントを伴うようなアクションを繋いでいく。そういったアプローチを意識するだけで、日本人ダンサーの成長のチャンスは拡がるのではないかと信じている。
試合に於いて、私達はペアで約束されたルーティンを踊る。という事は全てのステップには文脈があり、意味を成し、ストーリーを醸し出すものでなければならないはずだが、時としてダンサーは意味の無い、自己完結な動きに走ってしまうことがある。フロアを踏み、軸を移動させていく。一見シンプルで簡単そうなこの動きが非常に奥深く、そして、関わり合いを前提としたペアダンスの可能性である事を、私達日本人はもう一度考えてみる必要があると感じさせられた。