先日、クリスティアーノ・ロナウド選手がナイキと10年およそ192億円のスポンサー契約を結んだというニュースが流れた。途轍もない金額である。世界で最も競技人口の多いスポーツの最も有名な選手である。ナイキとしてはその金額に見合うメリットがあると判断したからこの大型契約に踏み切ったのだろう。
さて、国内外、洋の東西を問わず、あらゆるプロスポーツ、エンターテイメント、興行イベントを見渡して、果たして入場料だけで常設的に成立し、成功している催しが果たしてどれだけあるだろうか。
日本国内においても、野球やサッカー、宝塚やアイドルのコンサートまで、実はチケット収入だけでは興行経費は賄えておらず、そこには必ずと言っていいほどスポンサーがついている。もちろん広告収入やグッズ販売などの二次的な収入源はあるものの、ほとんどのスポーツイベント等は、スポンサーがいなければ成り立たないというのが現状なのである。
ダンス界はどうだろう。残念ながらメジャーでもない、ニッチな業界のイベントや競技会にはなかなかスポンサーがつかないということは事実であろう。バルカーカップを協賛しているバルカー社や、JDSFの強化選手をサポートしているブルボン社などは非常に貴重な存在だと言える。
何故、我々の業界にスポンサーが付かない、ないしは付いても継続しないかを考える時に、スポンサーとタニマチの違いを理解する必要がある。
スポンサーとはあくまでその出資が会社の利益に見合うものである、という合理的な判断の元、経営戦略の一環として出資をおこなっている会社や組織である。例えば出した金額に見合うだけの、企業や商品の宣伝効果やイメージアップが図れたり、バーター契約や、業務拡大への確信があって行われるものを指す。
一方、タニマチ(語源は大阪谷町筋の旦那衆が相撲取りを可愛がり、金銭的援助を行ったことから)やパトロンと呼ばれる個人や会社とは、あくまで個人の趣味や善意から人や組織、イベントに対して出資、援助するものであり、個人ないしはオーナー会社の社長など、本人の裁量で動かせる金額内での援助になる。もちろんそこには見返り的なモノ、コトは存在するが、その基準はケースバイケースであろう。またタニマチは、その個人一代で完結する場合が多く、当人の状況の変化によって、出資の状況も変化しやすいことも特徴の一つである。
実はダンス界は相撲界とよく似た構造を持ち、今までも主にスポンサーではなく、タニマチに支えられて来たことを理解しなければならない。ダンスの楽しさや素晴らしさに理解のある企業のトップや、役員によって多額の協賛金を頂いて来た歴史は、皆さんも知るところであろう。この構造によってダンス界は成り立たってきた訳だが、我々は彼らがスポンサーではなくタニマチ的な存在であることを理解していなければ、これからの業界の発展、振興には中々、結びつかないだろう。
要点をまとめると、
@競技会やイベントは集客だけでなく、スポンサーがいなければ継続していけない。
@今まで我々を支えてくれていたのはスポンサーではなくタニマチである。
つまり業界の発展、振興のカギは、いかにスポンサーを呼び込めるかということなのだが、我々は果たして、スポンサードに値する興行を開催出来ているであろうか。一般的にテレビでの視聴率やYouTubeやInstagram等のネット広告を見て分かる通り、その会社名やイメージ、商品が一体何人の人の目に触れ、何人の記憶に残るのかということが全ての価値の基準になっているのである。
何十万人、何百万人の人の目に触れ、社名やイメージの認知度が上がる。商品の購買に繋がる。そのようにして、企業利益に結びつかない限り、法人として利潤を追求する会社組織からスポンサードを得ようとする事はとうてい叶わない。
ナイキはクリスティアーノ・ロナウド選手に年間およそ20億円を支払っても尚、彼がナイキのシューズを履くことによってもたらされる経済効果が、それを上回ると経営判断したということだ。
例えば、我々の業界に1億円以上の価値があると経営判断する会社があれば、1億円のスポンサードは夢ではないということになる。その観点からすると我々の業界の課題は、自らの競技会やイベントの価値(つまり沢山の人の目に触れるチャンスを増やす)をもっと考える必要があるということになる。
課題があり、解決する方向性も見えている。知恵と勇気と情熱があれば、きっといい方向に向かうはず。皆さんと力を合わせ、少しずつだが、このダンス界を良くしていきたいと願うばかりだ。
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