ボールルームダンスがアートであるか、スポーツであるかという議論は一旦、棚の上にあげて置いて。自らの身体を用いて、音楽を表現することがダンサーの定義だとするならば、その身体と向き合い、身体の緻密な使い方を習得することは必要不可欠だと思う。
ひと昔前ならば、ダンスの筋肉は踊って作る、といった考え方が主流だったが、他のあらゆるジャンルのスポーツや、身体を駆使したパフォーマンス同様、ボールルームダンサーにもダンス以外の何かで、自らの身体を鍛錬する必要かあるのはもはや自明の理だろう。
私はもう15年ほど、’Total Workout' というパーソナルトレーナーのいるジムに通っている。コーチャーの二宮ふみえ先生に、「進陪と奈津子は弟とお姉さんみたいに見える。進陪が細すぎるから、ジムに行って筋肉を付けなさい。」と言われたのが、きっかけだった。当時、体重が60キロにも満たなかった私は、言われるがままにジムへ行き、茅野さんというパーソナルトレーナーに付いたのだが、そのトレーナーがたまたま同い年、同じ星座、同じ血液型とあって、直ぐに打ち解けた。始めの1か月で体重を10キロ増やす目標を立て、来る日も来る日もウエイトトレーニングと食事改善である。筋肉痛に苛まれ、足を引きづりながらレッスンをした日々も辛かったが、何よりも一日中、お腹が空かないように、ひたすらご飯を食べまくるというのが、しんどかった。一日に米は八合。シーチキンにささみと卵白。吐き気との闘いである。練習して汗をかくと、炊きたてのお米の匂いがしたものだ。
最初の3週間で、体重は8キロ増え、それからは増量した筋肉を使える筋肉にする為、スピードトレーニングを並行しながらおこない、最終的には5年後に15キロ増量の75キロに落ち着いた。最初のうちは怪我も絶えなかったが、体重が落ち着いてからは怪我も減り、病気にもなりにくくなった。トレーニングの幅も広がり、体幹トレーニングや、ピラティス、ヨガ、心肺機能を高めるインターバルトレーニングなど、その時に知り得る最新のトレーニング知識を活かし、常に向き合ってくれたトレーナーがいなければ、今の自分はいなかったと思う。
全てのダンサーにパーソナルトレーナーが必要かどうかは分からないが、明確な目標があり、その目標に到達する為の有用な手立てとしては、うってつけではないかと思う。1人でジムに行くこともあるのだが、まず、1人で出来る事は限られているし、身体的にも、安全面から考慮しても、自分だけではそこまで追い込んだトレーニングは出来ない。第三者の目を通して、自分を客観視出来る事も重要で、トレーニングのフォームや栄養管理など、1人では到底やり切れないことも、その道のプロフェッショナルが側にいてくれる安心感は計り知れないだろう。金銭面からすると決して安くはないが、若い現役のうちにしかやれないこともあるのだから、チャレンジする価値はあると思う。
昨年から桑原先生の理解もあり、うちのスタジオに週に一回、茅野さんにスタッフに向けたグループレッスンもしに来て頂いている。桑原先生、佐代子先生も参加して、皆でトレーニングするのも楽しく、人それぞれ得意、不得意があり、それ故のダンスの特性や傾向を知る事が出来、これまた勉強になっている。
Total Workout の面白いところは、常に最先端のトレーニング方法や理論を提唱してくれるとこにあり、当時まだ日本ではあまり一般的では無かった、振動マシンや、スラッグライン、TRXなど、いち早く取り入れており、またそれを教えられるトレーナーも充実していた。最近では目のトレーニングやレッドコードといった重力に影響を受けないコアトレーニングなど、面白く且つ、効果的なトレーニングも導入されており、トレーニング業界も日進月歩、進化していることを実感させられる。
一期一会。
私のダンスを通じての沢山の出会いの中でも、パーソナルトレーナーとの出会いは私のダンスを踊る上での礎を築いてくれた、有り難い出会いだった。
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