「ダンスの楽しさ、うまく教えられない問題」




ツースリー、チャチャチャ。ツースリー、チャチャチャ。ツーで左足前進、スリーで右足後退。違う違う、それはワン。ツーからスタート。


ダンスってなんでワンから踊り出さないんだろう?初めてダンス部に入部して、ルンバやチャチャチャを習った時に最初に感じた疑問である。

以来ずっと頭の片隅にあったこの疑問は、あるイギリスの先生に教わった時に解決した。「ルンバもチャチャチャもアクセントはワンだよ。ルンバのカウントワンにステップがないのは、ワンでボディがダンスをするからだよ。ステップがダンスじゃなくて、ボディムーブメントがダンスだからワンにはステップがないんだよ」

どんな音楽を聞いたってワンにアクセントがあるのに、なんで僕らはワンを無視して踊らなきゃいけないんだろうと疑問を抱えていた私には、まさに天啓に値する一言であった。

チャチャチャにしても日本人はツー、スリー、チャチャチャとカウントしてしまう。するとツーからスタートして、チャチャチャの部分(4&1)はまるで等速の三連符みたいに錯覚してしまい、ワンのストロングカウントを捉えきれなくなりがちだ。カウントはワン、ツー、スリー、チャチャ。が正解で、必ずワンからスタートして数えていくことで、ビートバリューに余りが出なくなるのである。

競技選手からして自分のカウントを勘違いして覚えているのだから、これを一般のダンス愛好家に教えているとしたら、大惨事である。




一般的に社交ダンスのハードルは意外と高いと思われている。全くの初心者がダンスを趣味や健康維持の為に始めるに辺り、まず初めに躓くのがカウントの問題である。カウントを数えながらステップすることが非常に難しいのである。

だからこそ初めに初心者の方に教えるのはジルバやブルースがいいのである。ジルバやブルースは日本人が安心して、自然に足を踏み出せるワンからステップが始まる。ワルツみたいにライズ&ロアーがあるわけでもないし、ルンバみたいに4からスタートしなくても大丈夫。それでも尚、初心者にとってはスローとクイックとステップの長さの違いが難関なので、その場合、いっそ全てのステップをクイックにしてあげると良い。

ビートバリューが等速だと、人は慣れやすく、リズムに乗れるから楽しい。では何故スローにしないかと言うと、ステップを全てスローにしてしまうと、初心者の人には片足に乗っていて時間が長過ぎて、バランスが耐えられないのである。適度なスピードで楽しく足踏み出来、且つ初心者でもすぐに踊れるにはジルバとブルースがちょうどいいのである。



ダンスの先生の中には初心者の人が体験レッスンに来て、いきなりルンバやワルツを踊らせようとして、次回からその方は来なくなった。なんて経験をした事がある人は結構いるのではないだろうか。初めての人にダンスの楽しさを伝えるには、実は結構なスキルが必要で、それは競技ダンスのバリバリの第一線で活躍していて身につくものではない。人は大概、自分が今習っている、取り組んでいることを自分の生徒にも教えがちである。その人のレベルに必要のない技術やスキルまで押し付けても、迷惑千万といかないまでも、あまり意味は為さないだろう。その人に合った正しい技術を伝え、ダンスの楽しさを伝える事がダンスの先生としての本当の意味でのスキルと言えるのではないか。

昨今のダンス界の衰退を感じるにつけて、実はこの様な「ダンスの楽しさをうまく教えられない問題」もまた、社交ダンスのハードルを上げ、新規ダンス人口の増加に歯止めをかけているのではないだろうか。



私は学生の頃、とあるダンスパブでバイトをしていた。そのダンスパブには初老のスタッフがおり、彼と踊るとどんな女性も本当に上手に踊ってみえるのである。

その彼から、暇さえあればリードやステップを教わり、果ては浜ジルやマンボーまで教わった事が今では貴重な財産になっているのだと思う。

結局、うまく踊らせるということはステップを沢山知っているという事ではなく、いかに相手の重心やバランスを感じ取り、うまく次の方向へ誘導するかだと思う。そういった意味では、ただ足型を教え、それをなぞるだけというレッスンでは、生徒は沢山ステップを覚えても。結局そのルーティンは踊れるようになったとしても、応用が利かず、ダンスタイムでは壁の花になってしまう。社交ダンスの魅力は音楽さえあればいつでもどこでも、誰とでも踊れる事であるならば、まずはそういった踊れる喜びをレッスンしていくことが肝要ではないだろうか。



イギリスに行くと、トップコーチャー達がアフターパーティーなどで、それはもう楽しそうにみんなで踊っているのだが、これが本当に上手い!サラリとリードし、サラリとフォローし、次々とスムーズにステップが繋がっていくのである。

私達も一度、プロの競技選手のみでダンスパーティーでもしてみるといいのかも知れない。そうすれば踊ることの楽しさや、踊らせることの楽しさを再発見出来るかもしれない。



こんなことを真剣に考えるきっかけを下さった、助川友朗先生。ありがとうございます。先生のお言葉を沢山拝借させて頂きました。